「パンの発酵時間はあと何分?」と時計ばかり気にしていませんか?
パン作りで大切なのは、レシピの数字よりも
「パン生地の状態」
を五感で知ることです。
触感、香り、音、ツヤ、そして味。
自家製酵母パン教室の講師が教える、数字に縛られない自由なパン作りの楽しみ方をご紹介します。

天然酵母ぱん蔵の 椿留美子です。
お山での田舎暮らしを実践、発酵生活をしています。
そんな暮らしを踏まえながら、東京と山梨で自家製酵母を使って、
発酵器を使わない、ほったらかしの「ゆるパン」教室を2009年より始めました。
現在は仕事で使いたい方、深く極めたい方向けのプロ向け講座をやっています。
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パン生地の声を聞くコツとは?レシピの数字から自由になり五感で楽しむパン作りの極意
パンを焼いているとき、あなたの視線はどこを向いていますか?
「ボウルの中の生地」よりも
「時計の針」
「温度計の数字」
を必死に追いかけてはいないでしょうか。
「レシピに発酵〇〇分と書いてあるから」
「温度は〇〇度と決まっているから」……。
もちろん、レシピの数字は大切です。
しかし、パン作りにおいて何より確実なのは、目の前のパン生地が発している「声」です。
今回は、自家製酵母パン作りの核心とも言える、
五感をフル活用してレシピの数字から自由になる方法についてお話しします。
今回のお話を音声で聞きたい方はこちらから
レシピの数字は「地図」にすぎない。パン作りで本当に大切なこと

パン作りを始めたばかりの頃、多くの人が陥るのが「数字の呪縛」です。
「1分でも過ぎたら失敗するのでは?」
「1度でも温度が違ったら膨らまないのでは?」
と、まるで正解のないクイズに答えているような不安を感じている方も多いかもしれません。
しかし、パン生地は生きています。
昨日と今日では気温も湿度も違います。
使う粉の銘柄や、酵母の元気さだって毎日変わります。
それなのに、毎日同じ「数字」という答えを当てはめようとするのは、
少し無理があると思いませんか?
私は
「レシピの数字は地図、実際にハンドルを握って運転するのは自分自身」
だと思っています。
地図(レシピ)には「この先を右に曲がる」と書いてあっても、
実際の道路が工事中なら迂回しなければなりません。
パン作りも同じです。
レシピに「60分発酵」とあっても、生地がまだ膨らんでいなければ、あと10分待ってあげる。
この「道路状況(生地の状態)」を見て判断することこそが、
パン作りの本当の楽しさであり、上達の近道なのです。

五感をフル活用!パン生地の状態を見極める5つのチェックポイント
では、どうすれば「生地の状態」を正しく判断できるのでしょうか?
そこで登場するのが、私たちの「五感」です。
視覚、触覚、嗅覚、聴覚、さらには味覚。
これらすべてを使って生地と対話するポイントを順番に見ていきましょう。
【触覚】赤ちゃんのほっぺのような弾力と張り

まずは、実際に生地に触れてみること。これが最も情報を得やすい方法です。
指先で軽く押してみたとき、どんな感触がしますか?
- 理想の状態: 赤ちゃんのほっぺやお尻のような、ぷるんとした弾力。内側から押し返してくるような勢い(張り)がある状態です。
- 注意サイン: 張りが強すぎて指を跳ね返すようだとまだ早いかもしれませんし、逆にダラッとして手にくっついてくるようなら、コシが抜けてしまっている可能性があります。
この「肌感」を覚えるようになると、触った瞬間に
「あ、今日はいい感じだな」と直感的にわかるようになります。
【嗅覚】粉の甘い香りと、発酵しすぎの「酸っぱいサイン」
ボウルに顔を近づけて、香りを嗅いでみてください。
捏ね上げ直後は、小麦粉本来の芳醇で甘い香りがするはずです。
発酵が進むにつれて、そこに酵母が作り出すフルーティーな香りが加わってきます。
- 理想の状態: どこか懐かしい、甘く優しい香り。
- 注意サイン: 鼻を突くような酸っぱい匂いや、お酒のようなアルコール臭が強すぎる場合は、発酵が進みすぎている(過発酵)のサインです。
【聴覚】酵母のプチプチ音と、焼き上がりの乾いた音

「パンの音を聞く」と言うと驚かれるかもしれませんが、実は生地は小さな声を出しています。
自家製酵母を育てている時耳を澄ますと「プチプチ……」という小さな音が聞こえることがあります。これは酵母が元気に活動している証拠です。
また、焼き上がりの見極めにも音を使います。
焼き上がったパンの底を指で軽く叩いてみてください。
「コンコン」という乾いた高い音が響けば、中までしっかり火が通り
余分な水分が抜けた証拠です。
「ボフッ」という鈍い音がする場合は、まだ中に水分が残っている可能性があります。
【視覚】生地の肌ツヤと、気泡の膨らみを確認する

目で見る情報は、最も客観的な判断材料になります。
特に注目してほしいのは「生地の表面」です。
- 理想の状態: つるんとしていて、潤いのある「ツヤ感」がある。生地の中にうっすらと気泡が浮き出て、ハリがある状態。
- 注意サイン: 表面がボソボソして荒れている、あるいはダラっとして今にも崩れそうな場合は要注意です。
また、ボウルの中でどのくらい体積が増えたか、断面の気泡がどう広がっているかを観察することも大切です。
【味覚】実は大切!発酵した生地の「甘み」を確かめる
「生の生地を食べるの?」と思われるかもしれませんが、
ほんの少しちぎって味を見てみてください。
本当に良い状態の生地は、焼く前であっても美味しいのです。
粉の甘みと酵母の風味が調和した、奥行きのある味がします。
逆に、この時点で嫌な酸味や苦味がある場合は、何かがうまくいっていないサインかもしれません。
プロの現場と家庭でのパン作りの違い

ここでひとつ、誤解してほしくないことがあります。
それは「数字による管理が全く不要というわけではない」ということです。
例えば、プロのパン職人の現場では、時間と温度の徹底した管理が不可欠です。
なぜなら、お店では毎日同じクオリティのパンを、
決められた時間に焼き上げなければならないからです。
「今日は気分が乗らないから発酵が遅れました」
では商売になりません。
プロは数字を味方につけて、環境をコントロールする技術を持っています。
しかし、お家で焼く皆さんは違います。
納期もなければ、厳しい規格もありません。
この「自由さ」こそが、家庭でのパン作りの最大の特権です。
数字に縛られすぎてストレスを感じるのではなく、
「今日は少しゆっくり発酵させてみようかな」
「生地が気持ちよさそうだから、今焼いてあげよう」
といった、生地を見つめて楽しむ余裕。
それこそが、家庭で焼くパンならではの贅沢な時間です。
「野生の勘」を言葉にして気づいた、パン作りの深さ

実を言うと、私がパン作りを始めた頃は、時計も温度計も一切見ない
「野生の勘」だけで焼いていました(笑)。
一人で焼いている分にはそれで良かったのですが、
いざパン教室を始めて生徒さんに教える立場になったとき、大きな壁にぶつかりました。
生徒さんは不安ですから、
「先生、あと何分ですか?」
「温度は何度が正解ですか?」
と聞かれます。
それに対し、当時の私は「生地がいい感じになるまでです」としか答えられなかったのです(苦笑)。
これではいけないと思い、そこから私は自分の感覚を
「数字に翻訳」する作業を始めました。
「私の感じる『いい感じ』は、一般的な室温だとだいたい何分くらいなのか?」
「この張りの強さは、捏ね時間でいうと何分に相当するのか?」
自分の中の「当たり前」を言語化し、数字に落とし込む作業はとても苦労しましたが、
そのおかげで「なぜ数字だけではうまくいかないのか」
を論理的に説明できるようになりました。
数字を知った上で、あえて数字を手放す
このプロセスを通ることで、パン作りは一生モノのスキルになります。
まとめ:今日からハンドルを握るのはあなた自身です

五感を使ってパン生地と向き合うこと。
最初は難しく感じるかもしれません。
「これで合っているのかな?」と不安になることもあるでしょう。
でも、大丈夫です。
何度も生地に触れ、香りを嗅ぎ、観察し続けるうちに、
ある日突然「あ、今だ!」とわかる瞬間がやってきます。
五感でパンが焼けるようになると、めちゃくちゃ強くなります。
旅先でも、慣れないキッチンでも、どんな環境であっても美味しいパンが焼ける。
しかも、正解のない自家製酵母の世界を、自分なりの感性で実践できるようになります。

パン作りは、もっと自由で、もっと楽しいものです。
レシピという地図を片手に、でも視線はしっかりと目の前の生地に向けて。
今日から、あなたのパン作りのハンドルを、あなた自身の感覚で握ってみませんか?
あなたの五感が教える「生地の声」に耳を澄ませて、
世界にひとつだけの美味しいパンを焼き上げてくださいね。
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