なぜコンビニには
100%天然酵母のパンがないのか?
イーストとの違いや市販できない理由を、企業研修の実話から解説。
パン作りで味が安定しないのはデメリットではなく、
自家製酵母ならではのメリットです。
二度と同じパンが焼けない価値をお伝えします。

天然酵母ぱん蔵の 椿留美子です。
お山での田舎暮らしを実践、発酵生活をしています。
そんな暮らしを踏まえながら、東京と山梨で自家製酵母を使って、
発酵器を使わない、ほったらかしの「ゆるパン」教室を2009年より始めました。
現在は仕事で使いたい方、深く極めたい方向けのプロ向け講座をやっています。
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【天然酵母とイーストの違い】なぜコンビニにない?安定しないことこそが最大のメリットである理由
皆さんは、コンビニやスーパーで
「自家製天然酵母 100%使用」
と書かれたパンを見たことがありますか?
おそらく、ほとんどの方がないはずです。
パッケージに「天然酵母使用」と書かれていても、裏面の原材料を見ると
「イースト」が一緒に使われていることが大半ではないでしょうか。
パン酵母、と書かれているものもありますね。(これはなんぞや??って思う方もいらっしゃるはず)
健康志向が高まる今、技術力のある大手メーカーが本気を出せば、
完全な天然酵母パンも作れそうなものです。
しかし、なぜかそれをしない。
実はそこには、企業としてどうしても越えられない
「2つの壁」
が存在するのです。
今回は、私の講座に企業研修で受講してくださった方がいらっしゃいます。
現場で実際に体験した「衛生管理部から待ったがかかった話」を交えながら、
以下のことについてお話しします。
- なぜ大手は天然酵母(自家製酵母)を使わないのか?
- イーストとの決定的な違いとは?
- 味が安定しないことは失敗ではなく、私たちだけの特権である理由
「今日のパンは膨らみが違うな…」と悩んでいる方も、
この記事を読めば、その“ブレ”が愛おしく感じるかも。
今日のお話を音声で聞きたい方はこちらから
大手が「自家製天然酵母」を使わず「イースト」を選ぶ決定的な理由
以前、ある企業の方から「新しくパン部門を立ち上げたい」というご依頼があり、
私の元へ研修にいらしたことがありました。
担当者の方はとても熱心で、私の講座(基礎マスタープロコース)で一生懸命技術を学ばれ、
本当に美味しい自家製酵母パンを作れるようになりました。
ところが、いざ会社に戻ってプロジェクトを進めようとした時、
思いがけない部署からストップがかかったのです。
それが「衛生管理部門」でした。
理由1:衛生管理の壁(天然酵母は菌か命か)

衛生管理のプロから突きつけられたのは、こんな疑問でした。
「その自家製酵母は、衛生的に100%安全と言い切れるのか?」
私たちパン作りをする人間からすれば、瓶の中でプクプクと元気に育っている酵母は
「命」であり、生命力の象徴のように見えます。
とても素敵で、愛おしい存在です。
しかし、菌の管理を徹底するプロの視点では違います。
正体の特定しにくい自家製酵母は、「リスクのある雑菌」に見えてしまうのかもしれません。
pH(酸性・アルカリ性)の調整や、菌の挙動を完全に制御できるかどうかが問われ、
結果としてその企業では、やりたかった自家製酵母の導入を断念せざるを得ませんでした。
(結果、別の天然酵母だとギリギリOKが出ました)
特定の管理された酵母ならOKでも、
「自分たちで起こした酵母」
を製品化するのは、企業にとって非常に高いハードルがあるのです。
理由2:均一化の壁(市販パンに求められる安定性)
そしてもう一つ、イーストと天然酵母の決定的な違いが、この「均一化」の壁です。
大手メーカーの使命とは何でしょうか?
それは、
「北海道で買っても沖縄で買っても、全く同じ味・同じ形のパンを提供する」こと。
全国に流通させるためには、品質の均一化が絶対条件です。

しかし、天然酵母は生きています。
- 今日の気温
- 湿度の変化
- 気候のちょっとした揺らぎ
これらによって、膨らみが違ったり、香りが変わったりします。
「今日はこんな出来だったのに、次の日は微妙に違う」ということが日常茶飯事です。
私たちにとっては「面白い変化」でも、工場での大量生産においては
「致命的な欠陥」となってしまいます。
だからこそ、大手は安定して発酵するイーストを選ばざるを得ないのです。
天然酵母のデメリット?「安定しない・同じパンが焼けない」は最大のメリット
ここまで聞くと、「やっぱり天然酵母は安定しないからダメなのか…」と思われるかもしれません。
しかし、ここからが一番お伝えしたいことです。
「大手ができない」ということは、裏を返せば「私たち個人の独壇場」であるということ。
毎回味が違う、季節によって風味が変わる。
それは失敗してグレているのではなく、その時だけの自然の味ができている証拠なのです。

その日の気候と対話する「パン作り」の楽しさ
私の教室でも、生徒さんとこんな会話をよくします。
- 「昨日はもっと膨らんだのに、今日は生地が締まってるね」
- 「今日はすごく元気に膨らんで、食感が全然違うね」
こういった変化は、「自然と暮らす(共生する)」ことそのものです。
機械的に同じものを作るのではなく、その日の環境や酵母の機嫌を感じ取ってパンを焼く。
このプロセス自体こそ、大きな価値があるのではと思っています。
工業製品には出せない「人間味のある味」
徹底管理された、いつ食べても変わらない美味しさを作る大手メーカーも、
もちろん素晴らしいです。
それは彼らのミッションだからです。
でも、私たちにしか出せない味があります。
それは、工業製品には出せない「揺らぎ」のある味です。
人間味のある、二度と同じものは焼けないパン。
私は「夏のパン」と「冬のパン」では味わいが違う、ということを常々言っています。
どちらも滋味深い、旨みのあるパンであることには変わりありません。
まとめ:市販にはない、あなただけの自家製酵母パンを焼こう

もしあなたが、焼くたびに出来上がりが違うことで
「また失敗しちゃった…」
と落ち込んでいるなら、今日からはこう考えてみてください。
「今日は、こういうふうになりたかったのか」
その時だけの出会い、一期一会です。
菌という生き物と対話し、その瞬間の環境まるごと焼き上げる。
これは、どんな大手メーカーも真似できない、あなただけの特別なパン作りです。
ただし、一つだけ心に留めておいてほしいことがあります。
もしあなたがパンを販売したり、教室で生徒さんに提供したりする立場なら、
「天然酵母だから不安定でも仕方がない」
と開き直って美味しくないパンを出してしまうのは、少し違います。
お客様に食べていただく以上、美味しくないパンになってしまっては本末転倒です。
仕事として向き合うなら、不安定さの中にも
「その時の美味しさ」を最大限に引き出し
味わっていただけるような工夫をすること。
それを怠らない姿勢も大切です。
それを踏まえた上で酵母生活を楽しんでいってくださいね。





