同じレシピ・同じ材料なのに、
なぜか仕上がりが違う——。
天然酵母パン講師の椿留美子が
「手の温度」
「翻訳力」
「手の個性」
という視点で、パン作りの長年の謎に正直に答えます。

天然酵母ぱん蔵の 椿留美子です。
お山での田舎暮らしを実践、発酵生活をしています。
そんな暮らしを踏まえながら、東京と山梨で自家製酵母を使って、
発酵器を使わない、ほったらかしの「ゆるパン」教室を2009年より始めました。
現在は仕事で使いたい方、深く極めたい方向けのプロ向け講座をやっています。
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なぜ「同じレシピ」なのに仕上がりが違うの?——「手の個性」と「翻訳力」の話
同じレシピ、同じ材料、同じ手順。
なのになぜか、仕上がりが違う。
これ、パンを作っている方なら一度は感じたことがあるんじゃないかと思います。
特に「教室ではうまくできたのに、家に帰ってやったら全然別物になってしまった」という経験、本当によく聞くんですね。
今日はその「なぜ?」に、正直に答えていきたいと思います。
教室でうまくいったのに、家ではなぜ違う?

まず最初に。
「教室と家で仕上がりが違う」というのは、材料や手順の問題ではないことがほとんどです。
一番大きな原因は、発酵の見極めです。
教室でやる環境と、家でやる環境は違います。
部屋の温度、湿度、キッチンの状態。
教室でやった通りの時間と手順を家でもやったとしても、同じ結果にはならないことがほとんどで——これはね、当然のことなんです。
「同じようにやってるのに」というもどかしさ、すごくわかります。
でも、環境が違う以上、同じにはならない。
だからこそ大切になってくるのが、後でお話しする「翻訳力」なんですが、まずはもう一つの大きな要因からお話ししますね。
グループレッスンで気づいた、手の温度という現実

私のグループレッスンでは、何人かの生徒さんが同じレシピ・同じ材料で、一斉にこねていきます。
面白いのはここで——
皆さん、出来上がりの生地の状態が違うんです。
それに気づいてもらうために、
「ちょっとお隣の生地に触ってみてください」
とやってもらうことがあるんですね。
すると皆さんびっくりする。
「あったかい!」「ヒヤッとしてる!」
同じ材料でこねていたのに、生地の温度が全然違う。
これがなぜかというと、パンの生地って、触っている人の手の温度をそのまま受け取るんです。
手が温かい人の生地は温まる。
手が冷たい人の生地は、なかなか温まらない。
これだけで、発酵のスピードも、生地のまとまり方も、全然変わってくるんですね。
仕上がりが違う原因の多くは、実はここにあります。
「先生はなんで手にくっつかないんですか?」

もうひとつよく言われることがあります。
「先生はべたべたな生地でも全然手にくっつきませんよね。なんでですか?私はこんなにくっついてしまって」
(笑)これも本当によく聞かれます。
でも実は、私も最初からそうだったわけじゃないんですね。
べたべたな生地を触るとき、最初のうちってどうしても、くっつきそうで怖くて——手が腰引けてしまったり、逆に力が入りすぎてしまったりする。
そうすると、よけいくっつく。
経験を重ねていくと、生地との「適切な距離感」みたいなものが、体でわかってくるんですね。
力の入れ方、触れるタイミング、手を離す感覚。
これ、言葉で説明するのが本当に難しくて。
「こうしてください」と伝えるより、隣で一緒にやる方がずっと早い。
でも、続けていくと皆さんちゃんと変わっていきます。
手にくっつかなくなっていく生徒さんを見るとき、講師として本当に嬉しい瞬間です。
「翻訳力」という言葉

ここで、「翻訳力」という言葉をご紹介したいと思います。
レシピには「一次発酵、〇〇℃で▲▲分」なんて書いてある。
でも実際に▲▲分経ったとき、生地がその状態になっているかどうかは、別問題です。
その日の気温、生地の温度、酵母の元気さによって、全然違ってくる。
「▲▲分経ったから終わり」ではなく、
「今この生地はどんな状態か」
を自分で読み取れるかどうか。
これが翻訳力だと思っています。
レシピという「文字」を、目の前の生地という「現実」に変換する力。
私自身も、パン作りを始めた頃は
「レシピ通りにやってるのに先生と同じにならない」
と感じることがよくありました。
何が違うんだろうと生地を見つめながら、
「あ、今日は気温が高いから発酵が早まってるんだ」
とやっと気付く(!)
これはね、経験を重ねることでしか育たない。
でも、育てることは絶対にできます。
手の個性は、弱点じゃなかった

ここが今日いちばん伝えたいことです。
手の温度って、これまでどちらかというとデメリットのように話してきたんですが——
実は逆の面もあるんですね。
昨日のレッスンでも生徒さんとお話ししていたことなんですが
手の温度ってパンの焼き上がりにも影響してくるんです。
例えば
手の温かい人は、こねがとにかく早い。
生地がすぐにまとまってくれる。
でも、成形になると——逆に手の冷たい人の方がうまくいくことが多いんです。
温かい手だと生地がだれやすくて、触っている時間が長くなると成形がうまくいかない。
焼き上がりに影響が出てきます。
一方で手が冷たい人は、生地が締まったままきれいに成形できる。
「手が温かくて」「手が冷たくて」と、なんとなくコンプレックスのように感じている方もいるかもしれません。
でも、それはどちらも個性なんです。
強みと、気をつけることが違うだけで。
手が温かいから成形がうまくいかない——それは、落ち込むことではなく、対策ができることです。
自分の手の個性を知ることが、上達への一番の近道だと私は思っています。
手の個性を知ることが、一番の近道

「同じレシピなのに違う」の正体は、発酵の見極め・手の温度・生地との距離感・そして翻訳力。
どれも、時間をかけて育てていくものです。
焦らなくていい。
あなたの手の個性を、ちゃんとパンが受け取ってくれています。
自分の手を知るところから、始めてみてください。
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